未亡人をもてあそんだ結果、妻を呪い殺された「光源氏」
日本史あやしい話3
『源氏物語』とは、主人公・光源氏の女性遍歴をつづった、愛憎うずまく恋物語である。その中には、光源氏からの寵愛が薄れ、妬心が極まったことで生霊となり、恋敵を呪い殺してしまった女性も存在する。それが、光源氏の亡兄の妻だったといわれる六条御息所(ろくじょうのみやすどころ)であった。いったい何があったのだろうか?
■未亡人となった六条御息所に、光源氏が猛アタック
大河ドラマ『鎌倉殿の13人』に登場した源頼朝の娘・大姫が、「葵になりました」と謎の言葉を残して姿を消してしまったことを思い出していただきたい。何を意味していたのか筆者にはわからないが、「葵」と聞いて、思わず背筋が凍った。同じように恐ろしく思った人も、少なくはないだろう。
そう、「葵」と聞いて、すぐに『源氏物語』に登場する悲運の女性・葵の上のことを思い起こしてしまったからである。葵の上とは、いうまでもなく光源氏の正妻。父は左大臣、母は桐壺帝の妹・大宮で、4歳年下の光源氏とは、従兄弟同士であった。
結婚はしたものの、葵の上は夫・光源氏の女遊びに辟易し、夫婦仲は早くから冷めきっていた。光源氏にとっても、ツンと澄ました彼女のプライドの高さが鼻について、なかなか心を開く気になれなかったようである。
そうして妻を省みることなく、女性遍歴を重ねていった光源氏。その中の一人が、六条御息所という女性であった。光源氏の亡兄(東宮)の未亡人で、光源氏は兄の存命中から、その美貌に惹かれていたというから、やはりかなりの好色である。もちろん、当時は東宮の妃とあって、光源氏にとってみれば雲の上の人、手の届くものではなかった。
それでも、兄が亡くなって未亡人となってしまえば、話は違う。もはや邪魔するものなど何もないとばかりに、猛アタックしたのだ。ひとり残されて寂しい六条御息所も、14歳も年下の美少年に言い寄られて、つい、ほだされてしまったのだろう。逢瀬を重ねるごとに、のめり込んでいった。やがて、彼を独占したいとまで思うようになる。
しかし、独占欲が光源氏の負担となってしまうことに、六条御息所は気がつくことができなかった。心が離れ、年上の彼女から遠のく光源氏。対して、若い恋人にのめり込んだものの、相手にされなくなって悶え苦しむ彼女。その辛い思いを託した歌が、なんとも切ない。
「袖濡るる こひぢとかつは 知りながら おりたつ田子の みづからぞ憂き」
(袖を濡らすほど泣き明かす恋とは知りながらも、泥沼に落ちていく我が心が悲しいのです)
頭ではわかっていながらも身悶えしてしまう、そんな苦しさを儚む歌である。
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